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No.62 |
郷内発電所 |
由利本荘市矢島町坂之下字止坂50 |
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昭和15年(1940)、増大する戦時下の電力需要に応えて秋田県では各地に水力発電所が建設された。一月に生保内発電所(31,500kw)、12月に郷内発電所(13,200kw)と神代発電所(19,700kw)が運転開始されている。
鳥海山水系にある郷内発電所は昭和13年(1938)に着工した旧東北振興電力株式会社が前身である。子吉川の谷間を有する鳥海山麓、見事な桜並木を従えた敷地の奥に発電所本館と斜面を下る導水管、そして大きな円筒の調圧水槽が現在も現役として活躍している。
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本館建物は壁面窓の上部に小窓が並び、西洋居館の伝統的意匠の影響を受けているもので、RC工法、2階建て、鉄筋トラスの切妻造り、鉄板葺きの建物は修復が繰り返されているものの、基本構造は建築当事とほとんど変わらない。
子吉川水系には数多くの発電所や調整池、水路などがあるが、郷内発電所のいちばんの特長は、導水管上部、丘陵上に立つ断面円形の巨大な調圧水槽であろう。コンクリートシェルター内に高さ20mの水槽が収まり、全体の高さは38.2mに及ぶ巨大なものである。そして水槽には直径2.8mの導水管が接続され、発電機に供給される水圧が調節されている。
郷内発電所への取水は子吉川上流、旧鳥海町猿倉大川端にある子吉川ダムが担っている。このダムも発電所とほぼ同時に建設されたものと思われるが、堰堤RC造り、操作橋鉄筋トラスで、コンクリート製橋脚や鉄製水門、ローロングゲート、上下可動式の水門を備えている。鳥海山麓に点在する数カ所の発電施設は、秋田県の近代化の一翼を担った産業遺産であることにまちがいはない。
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(取材・構成/藤原優太郎) |
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